英語の言語習得
先日、小学生クラスでゲームをする時に、私が”You can play three times.(3回できるよ)”と言った瞬間に、”Only three times!? More! (たった3回!もっと!)”と即座に言い返してきた子がいました。まだ英語歴も2年ほどの子が自分の言いたいことを瞬発的に、しかも感情をこめて英語で表現した姿に感動しました。「3回は英語で?」と聞かれて”Three times”と答えるのとは違い、自分が伝えたい時に使えるのがコミュニケーションとしての英語です。日頃、「ちゃんと英語が身についているのかしら。」「こんな文法も知らない。」等、きっと保護者の皆さまはお子様の学習状況に不安や悩まれていることがあると思い、今回は、言語習得について書いてみることにしました。
私の世代の英語教育は訳読と文法が中心でしたが、当校の英会話クラスでは訳読は行っておりません。訳読は文法知識や理解を確かめられる良い点があるものの、会話力で考えると幾つかのデメリットがあります。例えば、
1. 母語の影響を受けた間違いが多くなり、正確に伝わらないことがある。
(例 「どう思う?」は英語で”What do you think?”と言いますが、「どう=How」と訳して、”How do you think?”と使う。山火事は”forest fire”ですが、”mountain fire”と直訳してしまったり、東南アジアのSouth-eastが逆になる等)
2. 会話の反応に時間がかかる。
[英語を聞く→日本語に訳して理解→英語に直して返答]という順序になり、実際の会話ではこのような時間がなく、会話が成り立たないこともあります。
当校の英会話クラスは、訳読はせず、多くの英語に触れて使ってみる言語活動に重点を置いていますが、訳読や文法中心に対して「言語活動」の場合、理解度が見えづらくなる欠点があります。言葉を自由自在に使えるようになるまでの流れは、以下のようにとても長い道のりを経て習得されていきます。
ステップ 例) How many … ?
1. 言語に触れる
How many apples do you see in the picture? “How many teeth/ brothers…” と“How many”という音を様々な場面で何度も聞いたり、絵本など文章のなかで出あう。
2. 気づき → 理解
“How many”と言う音を察知し、「数を聞かれている」と理解する。
3. 試す、取り込む
講師のサポートのもと“How many”を使って、正しく伝えられるか試す。クラスメートや講師と聞きあったり、ワークブックで書いたりする。一時的にできても長期的にできるとは限らない。
4. 自由に使える
“How many”の知識がしっかりと学習者のなかで整理され、長期記憶として貯蔵され、必要な場面で瞬間的、自動的に使うことができるようになる。
一方で、単語やフレーズに比べ Is it …? Are they …? Does she…?のように文法項目は、「4 自由に使える」の段階までには膨大な時間がかかります。袋の中の物当てや、3ヒントクイズなど様々な場面でその言語に出あわせて、子どもの中に取り込めるように機会を作りますが、does, isなど、細かな点へのサポートを受けながら使える「3 試す、取り込む」の段階から「自由に使える」までには多くの時間を要します。言語は、一つ一つが完璧になって次へ進むのではなく、様々な事柄・単語に触れ、スパイラルに学ぶ過程で、自然に使えるようになっていきます。言葉を覚えかけた子どもに「~が好きですか?」が言えてから「~がありますか?」を練習しようね、と教えないのと同じです。
また、「スペルができない」というお悩みもよく伺います。私たちが大切にしている過程は、リスニングが第1段階です。日本語でも何度も言葉を聞いて理解してから使い始めるように、英語もまず聞き取ることができ、理解し、そして様々な活動を通して使ってみる。その後、読む、書くことを目指していきます。私の世代が学んだ順序とは違いますが、リスニングの土台なしに英語は話せるようにはなりません。すぐに成長がないように見えても、学習者の中では少しずつ蓄積されているのです。
私が担当してきた生徒で、小学生の時は読むことがそれほど得意ではなく、分かっていても黙っているタイプで積極的には話さない子がいます。その子は小学6年生の時に英検5級、中学1年で4級、中2で3級、中3で準2級に合格していきました。彼女は学業と部活と忙しい中、自ら「やりたい!」と取り組んでいます。その姿を見て、初期段階で急がず、英語を使って楽しむ土台を作りコツコツと蓄積していくことの大切さを改めて感じました。合格したことよりも、「英語が上手になりたい、もっと理解できるようになりたい」という気持ちを持ち続けていることが本当に大切だと思いました。